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裁判所に出頭する前の晩はさすがに寝つかれなかった。なぜス ピード違反を犯してしまったのか、裁判官が「なるほどそれでは 致し方ない!」と、膝を打って納得するような見事な言い訳を用 意しなければならない。友人たちは、トイレが我慢できなかっ た、とか、大事な会議に遅れそうだった、などといろいろ提案し てくれたが、どれも自分の都合であって、違反を正当化できてい ない。違反理由を述べているだけだ。何か、スピードを出さなけ れば危険を回避できない、というような状況説明ができれば、違 反を正当化できる。

つまり、正当防衛みたいな。たとえば、人が 道路を横断しようとしていて、このまま制限速度内で
通過したら轢いてしまうタイミングだから、敢えてスピードを上げた、とい うのはどうだろう。うーん、
スピードを落とすならまだしも、上 げたとなると、まるでトドメを刺しにいったようで、逆に心証が悪い。
行き詰ったので、ネットで検索してみた。すると、一つ詳しいサイトが見つかった。曰く、交通違反の
裁判では一切言い訳しない こと、とある。裁判で有罪が決定するまでは、あくまで無実なの だから、無実の人間に言い訳は不要。裁判は警察が被告の有罪を 証明しなければならない場であり、被告は何もする必要がない。 ただひと言、スピード違反を犯したと証明する証拠提出を求め よ、云々。

なんとなく詭弁だが、言い訳を考えなくてよいのは助かる。それ に裁判で嘘をつかなくて済む。たしか裁判では、選手宣誓みたい にして、エンマ様に誓って嘘はつきません、だったか、針千本 の〜ます、だったか、開廷前に誓わされるのをテレビで観たこと がある。そのうえで嘘をつくと寝覚めが悪い。 そして当日、人という字を手のひらに書いて飲み込んでから、と いうことはしなかったが、気合を入れて検事室に入ると、検事は 書類に目を落としたまま、開口一番こう言った。

「えーっと、15キロオーバーで罰金65ドルでしたね。どうで しょう、10キロオーバーに訂正して、罰金40ドルということで?」
「はあ、それはありがたいですが、三点減点はどうなりますか?」
「もちろん、減点はゼロです」

Deal!

ということで、そのまま二人で裁判官の待つ小法廷に行き、経過を報告し、40ドル払って、
さっさと裁判所をあとにした。なんのことはない。すべて、チケットをくれた警官の言うと おりで、自分は何も言う必要はなかった。これぞ、お役所出来 レース。警察が最初から、40ドル・減点なしのチケットを切れ ば、裁判所の受付の事務員も、荷物チェックや金属探知をした警 官たちも、検事も裁判官も(もちろん私も)みーんな無駄な時間 を遣わなくて済むのに、と友人に愚痴をこぼすと、「それじゃ あ、みんな失業しちゃうじゃん」と言われた。なるほど、そうい うシステムか。納得。