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  勤め先はソフトウェア開発なので、会社には世界中の顧客サイト から上がってきたバグ報告のデータベースがある。仕事が暇なと きには、そのデータベースをのぞき見るのがけっこう楽しい。特 に日本の顧客とサポートセンターのやりとりの記録は、なかなか 面白い。 サポートセンターの人たちは日本人をどう呼んでよいか戸惑って いるようで、苦心のあとが伺える。たとえば、英語で問い合わせ てきた日本人が仮に Tanaka Takao と名乗ったとする。

  こちらでは、知らない人でもいきなり ファーストネームで、Hi Mike, とか Hi Bob, などとメッセージを書き出すのが習慣だから、サポートセンター は、先に書いてあるほうがファーストネームだと勘違いし、Hi Tanaka, と返事を書き出す。そのまま数回メールがやり取りされたあと、途中から Hi Takao, に直っているので、きっと何かのきっかけで(たぶん日本に出張 した人からの情報で)ファーストネームはうしろのほうだと判明 したのだろう。

  ところが、すべての日本人が必ず<姓→名>の順で名 乗ってくるとは限らない。実際にはその逆もかなり多い。例え ば、Hanako Yamamoto と名乗ってきた人に対し、サポートセンターは自信満々で Hi Yamamoto, と返信し、しばらくすると、それが Hi Hanako,に直っている。間違いに気づいたときには、きっと混乱し たことだろう。日本の人名に馴染みがなければ、ファーストネー ムを見極める判断基準は何もない。

  もっと難しいのは、先方が部署名を入れてきた場合だ。たとえ ば、Portable Equipment Test 課という部署があり、それを PET と称している顧客がいたとする。日本人は部署名を名前の先に書 く人が多いから、PET Sakamoto とメッセージの末尾に書いてあると、サポートセンターの返事は、Hi Pet, となる。実際に見たのは、Pet よりももっと面白い名前だったが、それをここに書くのはやめて おこう。

  PET を名前だと思うのは機転が利かな過ぎると思われるかもしれない が、日本と違い人種が入り混じった社会では、意表を衝く名前に 出会うのは日常茶飯事なので、どんな名前が来ようとも、 「えっ、変な名前!」なんて動揺はおくびにも出さず、さらりと 当然のようにその名を呼び返すのが、逆にプロ意識の現われとも 言える。

  名前だけならまだいいが、まれに日本語で書かれたメールも来る ようで、その場合の苦労は言うまでもない。通常は翻訳に回す が、翻訳に回したら結局、「○月×日まで不在にしております」 という自動メールだったりすることもあるので、短いものはまず インターネットの機械翻訳にかけているようだ。その記録がまた 可笑しい。例えば、「ご存知でしたらお知らせください」とい う、とても控えめな質問が、Please tell me you know it.と訳されていて、「頼むからそれぐらい知っててよ」みたいな ニュアンスの横柄な質問にすりかわっている。機械翻訳の可笑し さを挙げだしたらきりがないので、このへんで。